もしも私がシンデレラだったらお城のパーティーに行けたのだろうか?
いきなりですが、YouTubeで動画を見たことありますか?
我が家のテレビではずっとYouTubeばっかりついています。子どもたちがYouTubeばかり見ていて。
私はあまりテレビを見ないタイプなので、子どもたちの見たいものがついている感じ。
先日、YouTubeで心理テストをしていました。その質問の中のひとつに「もしもあなたがシンデレラだったら…」というものがあってね。
魔法が解ける前に一つだけ残すことができるのなら…という質問。それに対してあーだこーだ言っていたんです。
いろいろ考えるのが好きな私は、家族に「それ、深読みしすぎ」とか言われていたんです。
そこでふと考えたんです。
魔法が解けるうんぬんの前に、もしも私だったら、そもそもお城のパーティーに行けたんだろうか?
びびっていけなかったんじゃない?お城に乗り込むのって勇気入りそうじゃない?
というわけで、もしも私がシンデレラだったら、お城のパーティーに行けたのかという妄想のストーリーが始まったのです。
はたして、お城に行けるのかどうか?
もしも私がシンデレラだったら…
もしも私がシンデレラだったら…
私がシンデレラ…
私はシンデレラ…
そう、私はシンデレラ。
実の母親は亡くなってしまって、今は父の後妻とその娘である義理のお姉さまたち(二人)と暮らしている。
母の記憶はほとんどない。
父は忙しくほとんど家にはおらず、義理の母とお姉さまと暮らしている。家はそこそこきれいなお屋敷で、周囲の人からは羨まれるような家だった。
と言っても、私はほとんど召使いのような扱いで、掃除などの雑用係だ。もしくは義姉のお世話係。服は義姉のいらなくなった服を着ている。だから、良い服ではある。
ほとんど一人ぼっち。だけど、一緒にいるよりも一人の方が気楽で、召使い扱いで良いかなぁって思ってる。
いつも汚れた服を着て、汚れているから「シンデレラ」そう、灰かぶり。
でもなんか、あんなふうにきれいなドレスを着ることも、うらやましいようで、どこか堅苦しいような気もする。だから、きっと灰かぶりが似合ってるんだ。
向こうから、楽しげな声がする。
今日はお城のパーティーらしい。義母と義姉はパーティーの準備で楽しそう。きれいなドレスを着て髪の毛のセットやメイクに忙しそうにしてる。
なんでも、今回は王子様がお年頃になったから奥さんを探したいらしくて、若い女性がたくさん招かれているらしい。つまり、王妃様になれるかもしれないって言う期待の詰まったパーティーだそうな。
気合が入る気持ちもわかる。
もちろん私は行かない。
…あんまり気にしてない。
でも、ちょっとうらやましいのかもしれない。お城のパーティーってどんなのなんだろ?
でも、どう考えても私には似合わないなぁ…。
そんなことを考えていると、楽しげな声は、賑やかなまま玄関を出ていき、義母と義姉は馬車でお城へと出発した。
静かになった家の中。あぁ、気楽。一人になるとなんだかホッとする。
だけど、少し寂しいのは嘘じゃない。
あぁ、なんかないかなぁ~と思ったりもする。
今夜、お城ではどんなパーティーが行われているんだろう?王子さまってどんな人なんだろ?
そんなことを考えながらお城に向かう馬車を窓から見送った。なんだか、馬車の中の楽しい様子が馬車の外まで伝わってくるかのように、馬車は軽やかに走って行った。
ふと、見送っていた窓から、何か光るものが部屋に入ってきた。
…何? 虫?
部屋の中に入ってきた光るものを目で追っていると、その光るものはふわりと部屋の真ん中にとんでいき、急に大きな光のかたまりに変わり、女性が現れた。
いや、びっくり!!怖すぎる!!
誰??この人?何者??
現れた女性はとてもきれいな人でとてもやさしそうに微笑んだ。なぜだか、信用できそうな暖かい感じのする人。
「お城のパーティーに行きたいのね?シンデレラ。」
女性はとてもやさしい口調で言った。
そうだ。行きたいのかもしれない。ほんとは。でも答えられなかった。
「シンデレラ。あなたにチャンスをあげましょう。お城へ行ってきなさい。」
心を見透かしたように、輝くような笑顔で女性は言った。
「いえ…でもこの服じゃ行けないので…」
行けるわけない。しかも、服だけじゃないし、どうやっていくのかもわからない。しかも怖い。
現れた美しい女性はいつの間にかひかる杖を持っていた。どこから出てきたのかわからないその杖をふった。いきなり服がきれいなドレスに変わった。
おかしい意味がわからない。
ネズミが出てきて馬に変わる。どっからかカボチャが転がってきて馬車に変わった。
いやいや、何もかもがおかしい。何でネズミが馬?カボチャはどこから出てきたの?しかも気がつけば部屋にいたはずが玄関の外にいる。
「行ってらっしゃい、シンデレラ。ただし、12時には魔法が解けてしまいます。必ず戻ってくるのですよ。」
そう言われて気がつくと、もう馬車の中にいる。自分で乗ってないのに、なんで??
え?どうやって行くの?馬車は誰が操縦するの?てか、お城への道は??
そんなことを考えている間に、馬車は走り出した。これ、どうなるの?ネズミってお城の場所知ってるの??
人が運転してない馬車、走ってて良いの?
そんなことを考えつつ、でも結構行く気になってきてる自分がいる。いや、でも、そもそもお城についたとして、お城に入れるの?招待状も何もないんですが?
そんなことを考えている間にも、どんどん馬車は進み、お城が近づいて来ているのが見える。心なしか、馬車を引くネズミだった馬は楽しそうに見えた。
もう、お城についても中に入れてもらえなかったら、それはそれでどうにかするしかない。
お城に到着して、馬車のドアが開いた。気がつくとガラスでできたとってもきれいな靴を履いていた。きれいで、歩きにくい靴…。
誰もドアを開けてない、勝手にドアが開いたのに、誰も疑ってない。みんな自分たちのことしか見てないっぽい。そりゃあそうだ。王妃様になれるかもしれないパーティー、他の人のことなんでどうでも良いに決まってる。
ましてや、かなり変わったカボチャデザインの馬車だし。
「ようこそ。こちらへ。」
案内の人が誘導してくれる。招待状とかなくて良いらしい。変な人とか来ないんだな。
周りを見てみるとみんなとてもきれいなドレスを着た人ばっかり。そのままでもきれいな若い女の人が私を見てと言わんばかりに輝くようなドレスを着ていた。
すごく気後れしてきた。わたし、ここに合ってなくない?
お城の中は見たこともないような輝く装飾にあふれていた。歩くのが申し訳ないように思えるような美しい廊下を行くと会場の入り口が見える。
会場に入ると、もわっとしたすごい熱気を感じた。楽し気な音楽。キラキラした人たちがたくさんいて、とてもにぎわっている。なんだか複雑な気持ち。みんな楽しそうにしてる…。
お城は広くて、とてもきれいなまるで別世界のようだった。おいしそうな食事と楽しそうな人達。そして、どことなく漂う、我こそは…と言わんばかりの熱気。
慣れない光景に、どうしたら良いのかわからない。自分が場違いな気がして仕方がない。とにかく、目立たないように端っこの方にいるようにしよう…。
しばらく会場を眺めていて、せっかくだからおいしそうなお料理をいただくことにした。見たことも食べたこともない、素敵な料理が並んでて、まさに別世界って感じがする。
もうすでに疲れてきた…。でも、食べ物はおいしい。やっぱ来て良かったかも。
急に会場の空気が変わった!王子様の登場らしい。この国の王子様ね。とってもイケメンという噂を聞いたことがある。
階段の上に王子様が登場した。みんなが一斉に注目する。あぁ、確かにイケメンっぽい。知らんけど。若い女性たちがぐっと背筋を伸ばしてアピールしているのがわかる。
私はきっと、関わる機会なんてないだろうから、あんまり関係ないだろう思う。とりあえず目立たないようにいよう。それが無難だ。
おいしい食事をいただいて、おとなしくすごしていた。ほかの人たちはダンスをしたりしていて、とにかく華やかな世界だった。
こんな世界もあるんだなぁ…と。たくさんの人の中に、ふと、義母と義姉たちを見つけた。慣れた様子で楽しそう。やっぱ、私は召使いがあってるのかも知れないなぁ。
「僕と踊りませんか?」
隠れるように過ごしていると、いきなり声をかけられた。振り向くとびっくり!王子様だ!!ありえない!!無理!!頭がパニックになる!!
「いえ、私、踊れないので!!」と言うと、「エスコートしますよ。」と。
「いえ、本当に無理なので!!」そう言って逃げ出した。
いそいでその場を離れて、少し落ち着いてから、考える。私、世界一の大バカ者なのかも!!王子様に声かけてもらって逃げてしまった!!
振り返ってみてみると、いつも家にいる義姉の一人がとても嬉しそうに王子とダンスしていた。
あぁ、やっぱり世界が違う…。
なんだか、一層寂しいような、思い苦しい気持ちになった。
ふと、涼しい風を感じた。見てみると、外に出られるところがあった。バルコニーで歓談してる人がいる。
ちょっと外の風にあたろう。
人をかき分けて、外への出口に進む。楽しそうにするほかの人たちは、まるで私のことなど存在していないかのように話し続けていた。
外に出てみると、キレイな月が出ていた。
熱気に包まれて熱くなっていた私の体を、ひやっと涼しい風が包んだ。とにかく人のいないところで一人になりたかった。
みると、少し目につきにくい木陰のような場所があった。木陰に進み、誰の目にもつかないところに行くと、地面に座り込んだ。もう、足が痛くて、とても踊れるような状況でもなかった。
月を見上げた。静かに輝く月がきれいで。
一人ぼっちだった。向こうで楽しそうな声が聞こえる。
やっぱ場違いだったなぁ…。
そんなことを考えながら、楽しそうに踊る義姉の姿を思い出した。なんだかしっくり来ているように思った。私にはできないこと。
なんで、こんなに違うんだろう?
そんな、考えても仕方のないことを思った。
…
「どうなさいました?大丈夫ですか?」
静けさの中、いきなり声がした。びっくりして見上げると、まさかのさっきの王子様だった。
「いや、ちょっと休憩してました!」
そう返事して立ち上がると、王子は「体調が悪いのかと思いました。」と笑った。
「いえ、人が多いところが苦手なので…」そう答えると王子はもっと笑った。
「あなたはめずらしい人だね。」そう言った。
それからお話した。王子もたくさんの人がいるパーティーは疲れるから、たまにここに隠れてちょっと休憩するらしい。
たくさんの人がいると疲れるって、なんだ、私と仲間か。いやいや、それは言いすぎ。調子に乗りすぎか。
そりゃお城の王子とあらば気も使うだろう。しかも、女性たちはみんなとても張り切っているだろうし。
めずらしい人…。そりゃ、私みたいにキレイなドレスで地べたに座り込むような人いないし、もっとも、王子にダンスを申し込まれて断るような人もいないだろうな。
いいんだ。私は変わり者で。
いろいろ話を聞いていると、お城の暮らしは大変そうだった。当たり前かもやけど、王子さまって大変なんだなぁと思った。
いろんなことを話す王子は、王子ではなく普通の人って感じで親しみやすかった。月明かりの下、無邪気に笑う顔を見ていたら、心の中がなんだか…、あったかいような、きゅっと苦しいような…そんな気持ちになった。
どのくらい時間がたったのか、あっという間だったような?
向こうから王子を呼ぶ声がして我に返った。時計を見ると、11時55分。
最悪!時間を忘れてた!!
呼ばれた方に戻る王子に、「私、帰らないといけないので!!」とだけ言って私は玄関へ向かって走り出した。
靴が痛くてうまく走れない。
魔法はもう解け始めていて、キラキラと光る砂のようなものが出てきていた。
「ヤバイ!急げ!!」
走りにくい靴が片方脱げてしまった。
もういい。どうせ魔法が解けたら消えるんだから。そのまま靴を置いて走った。
玄関を出ると、まるで私が来ることを知っていたかのように馬車が待ち構えていた。走って乗り込むと、馬車はすぐに走り出した。
キラキラと、光る砂に変わって魔法が少しずつ溶けていく…。途中で魔法が全部溶けてしまったらどうなるんだろう?
「何とか家までもって!!」
そう思った瞬間、ハッと気がついた。
最初の部屋にいた。
馬車も何もなく、いつもの服を着て、義母と義姉を見送った窓のところに座っていた。
…え? 夢??
どうやら夢を見ていたらしい。そんなにもうらやましかったのか…。
いつも通りの部屋。
いつも通りの服。
でも、不思議と靴が片方なくなってた…。
…
…